アテンドハウス・ウェスト
国立水戸病院のあった広大な敷地(東京ドームほぼ1個分)に、さまざまな医療施設や福祉施設、専門学校やレストランなどが建つ、医療福祉複合エリア「水高スクエア」があります。
クライアントとは古くからのおつきあいで、これまでにこの水高スクエア内にある5つの建物の設計・デザインを、エイプラス・デザインにご依頼いただきました。
いずれの建物も、クライアントの医療・福祉に関する高い志や理念を理解し、共有しながら、その時点での最善の表現や仕様を提供できたものと自負しています。
今回ご紹介するのは、それらに続き、水高スクエア内でエイプラス・デザインが手がける6番目の建物になります。
サービス付き高齢者向け住宅「アテンドハウス・ウエスト」は、既存の在宅療養包括サポート施設「アテンドハウス」の西側に新築された、鉄筋コンクリート造4階建ての施設です。
2階から4階は居室空間で、個室が60室用意されています。
入居の対象となるのは、60歳以上の方で、提供されるサービスは、1日3食の食事サービスや、巡回見守りサービス(安否確認)、24時間緊急時対応(ご家族への連絡、救急車の手配)など。建物内にケアマネジャーなど専門スタッフが常駐し、高齢の方が安心して個室での生活をおくることができる住宅施設です。
個室の内部は、入居者に快適な毎日をすごしていただくことを考え、木材をふんだんに使用した、上質で落ち着いた印象の空間に仕上げています。各階で木材の色調を変えているので、より住む人の好みに細かく寄りそうことが可能となっています。
各個室の入り口には、なるべく大きく入口が開くよう、開閉する「子扉付きの引き戸」を採用しました。
じつは、入口に関しては、クライアントからの要望が2つありました。
ひとつは、「ベッドなど大きな搬入物にも対応できるように広くしてほしい」というもの。もうひとつは、「夜間の静かな巡回見守りを可能にする入口にしてほしい」というものでした。少々難題でしたが、この「子扉付きの引き戸」が、2つの要望を一気に解決してくれました。
引き戸を開け、子扉も開ければ、かなり広い入口が確保できます。さらに、夜間の巡回見守りの際は、就寝前、入居者に子扉を少し開けておいてもらえれば、スタッフは引き戸を引いてうるさい音を立てることなく、開いた子扉から入居者の様子を確認できるというわけです。「子扉」の発想が、クライアントの入居者に対する細やかな心配りを具現化してくれました。
さらにもうひとつ、個室の設備で特筆すべきは、2階の東側にある14部屋に設置された、医療用の「酸素吸入」と「吸引用」の差し込み口です。これは、万が一、部屋で呼吸困難などに陥った場合、いち早く医療関係者による処置を開始できるようにと考案されたものです。病院にある設備と同じもので、まさに「医療福祉複合エリア 水高スクエア」内に建つ住宅だからこそ可能になったものといえます。
入居者が、自分の居室がある階とそうでない階をよりスムーズに認識・判断できるよう、エレベーターを降りたときに目に入る壁の色を各階で変え、個室の入り口脇に付けられた「室名札」にもその色を用いて、自然と自分の階のテーマカラーが記憶されるようにしました。さらに、床の色も各階で異なるものを採用して、フロアごとの印象をより変える工夫をしています。
夜間は、各階にスタッフが宿直しますが、緊急時の迅速な対応を可能にするため、各室からのナースコールや放送設備、火災報知機など、緊急の情報はすべて階ごとに対応できるよう端末をまとめて配置しています。
施設の1階には、「デイサービスセンター」が入っています。
外から訪れるデイサービス利用者に、明るく快適な時間を過ごしてもらえるよう、東側は全面ガラス張りにし、陽光の降り注ぐ明るい空間を確保しました。
かなり広いスペースがありますので、水高スクエア内の保育園児がお年寄りを前にお遊戯を披露するなど、ちょっとしたイベントごとにも気持ちよく使用してもらえるだろうと期待しています。
デイサービスの施設では、水をよく使うため、床と巾木の間に水が染みて、壁紙がカビたり腐食したりしがちなのですが、この施設では、床材を壁まで連続して立ち上げる工法を採用し、床と巾木の隙間をなくすことで、水が侵入しないようにしています。
手間がかかる工法で費用も多少かかりますが、建物のメンテナンスを考えると、経済的で効率的な工夫です。
照明についても、全館ほぼLEDを採用し、維持管理コストの削減を実現しました。
1階のデイサービス施設、2階~4階の住宅施設、そのどちらにも、医療・福祉施設を長年運営してノウハウを蓄積してきたクライアントならではの、最新かつ細心の配慮が随所に現われている施設です。
クライアントの理念の実現にまた関わることができ、光栄に思っています。
- 作品名
- アテンドハウス・ウェスト
- 分類
- サービス付き高齢者向け住宅、デイサービスセンター
- 建設地
- 茨城県水戸市
- 構造
- RC造 地上4階
- 延床面積
- 3,116.44㎡
- 竣工
- 2013年2月
- 業務内容
- 新築設計監理
- 設計担当
- 佐藤昌樹 池田洋 宮本崇雄